平成22年度 食育研修会(Ⅳ)報告書

熊本県立大学子育て支援研究会:坂本日名子 桐原智美 今給黎綾乃 東川麻里奈
浦川亜裕美 古場のぞみ 山口千紘 吉村歩奈美

講師
高橋 久仁子 教授(群馬大学教育学部家政教育講座)
テーマ
メディアに惑わされない食生活
~フードファディズムとメディアリテラシー~
実施日
平成23年2月23日(水)
参加者
熊本県地域子育て支援センター事業連絡協議会会員等
(保育園 園長、保育士、管理栄養士、栄養士、調理師、大学教授、学生他)
研修日程
13:00 受付
13:30 開会(講演、質疑応答)
15:00 閉会・終了

 

研修内容:

今回の研修会では、フードファディズムやメディアリテラシーの概念をもとに、氾濫する食情報への対応の仕方についてのお話であった。まず始めに1日(1800kcal)分のバランスの良い食品が並べられた写真が映され、健康に配慮した食生活とは必要なエネルギーや栄養素を過不足なく摂取することであり、「これさえ食べれば問題解決」という「健康食品」はないと伝えられた。物質的な成長とは栄養素の蓄積であるから、「米飯、汁、肉か魚の一皿、野菜の一皿」といった簡単な方法で生鮮食品を調理した、食材そのものが判別できるような食事を適度な量で食べることが大切である。また、食のジェンダー問題も取り上げられ、食は女性だけの仕事ではなく、一人ひとりの意識が重要であると伝えられた。

健康に関する食情報、特に五大栄養素の適切な摂取を軽視し、微量物質ばかりを重視した食情報が巷に氾濫している。また、食品成分の機能性研究から得られた新知見は学術的合意を必ずしも得ないまま、マスメディアの話題づくりや「健康食品」の宣伝広告に利用され、これら「売れる情報」には虚偽や誇張が紛れ込んでいる。この食情報は、少なからず人々の食生活を混乱させ、子どもの食生活にも影響を及ぼすため、このような状況をフードファディズムの概念で整理することが大切であるという。「フードファディズム」とは「食べものや栄養が健康や病気へ与える過大に信奉したり評価すること」であり、針小棒大論、拡大解釈、曲解、神話などがあげられ、次の3つに分類される。

  1. 健康への好影響を騙る食品の大流行:それさえ食べれば万病解決、あるいは短期間で減量可能と吹聴される食品が大流行することであり、最近ではバナナダイエットや納豆ダイエットが流行した。実際にはバナナは(ジャガイモ+サツマイモ)/2くらいの栄養しかないことや、非験者が体格の大きい人であるため必要摂取カロリーに違いがあることなどが述べられた。「おいしいものを我慢しないで飲んでも食べても痩せられる」ことは絶対にありえないことで、変なものに手を出してはいけないと忠告された。
  2. 量の無視:その食品に含まれる有益・有害成分の量を無視し、有害性を発揮するだけの量を摂取することはあり得ないにも関わらず、「大量摂取による健康への悪影響」として一般化すること。
  3. 食品に対する期待や不安の扇動:個人の状況を勘案せず、ある食品を体に悪いと敵視したり、別な食品を体に良いと推奨・万能薬視すること。「自然・天然」は良いといわれるが天然なものほど危険なものはない。また、良くする、悪くするのは食べ方であり、食品自体は評価できないと述べられた。

「メディアリテラシー」とは「情報を批判的に読み解き、活用する力」であり、メディアに惑わされないために重要な力である。「テレビで言っていた」「本に書いてあった」と信じ込む人も少なからずいるが、マスメディアからの情報はすべて吟味すべきである。例えば、2002年に栃木県の病院において9人もの食中毒による死者が出た。しかしメディアは「食中毒はもう古い。」といって、この年新たに生じた狂牛病問題ばかりを報道し、食中毒事件はほとんど報道されなかった。また、食品違反の事件では、中国が大々的に報道されているが、高橋先生が実際に調べた結果によると、食品違反の割合(違反数/検査数)は中国よりもイタリアやアメリカの方が多かった。また高橋先生は、牛乳有害説や砂糖有害説といった様々な情報に対しても、本当に有害性があるのか調べられて、日常に摂取する量では有害性はないという結論を出されている。

健康食品の一つに乾燥野菜粉末を錠剤化したものがある。多種類の野菜を一粒に凝縮したとの宣伝文言であるが、実験によって含まれる野菜の量を調べてみると、その量はごく少量だったという。これは野菜ジュースにも当てはまり、野菜ジュースを飲む≠野菜を食べることや、人参ジュース=甘い液体であるから、これらを子どもに与えて野菜を摂取させたような錯覚に陥ってはいけないと述べられた。また、燃焼系ダイエット飲料が売られているが、この「燃焼系」の意味を企業のHPで調べたところ、「日常生活を完全燃焼していただきたいという意味を込めている」と書かれていた。このように宣伝広告の文言は、注目を引きつつ、違反にならないような言い回しが多用されているという。

最後に再び1日(1800kcal)分のバランスの良い食品が並べられた写真が映され、フードファディズムに陥ることなく、「ご飯、みそ汁、肉か魚の一皿、野菜の一皿」という簡素な食事を、性別に関わらず用意できるような人を育てることを目指したいと述べられた。

 


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